改革・変革という言葉が魔術のように使われるこの浅薄な時代に、「保守思想」に本格的に取り組もうとする若者たちの高い志を、私は高く買いたい。いうまでもなく、保守主義はイギリス発の思想であり、近代主義に内蔵された伝統破壊をなによりも恐れた。西欧社会の基底には、保守の思想が深い水脈を形成しているにもかかわらず、我が国の思想やアカデミズムは、この歴然たる事実からあえて目をそむけてきた。それこそが、戦後日本の思想やアカデミズムがいかに近代主義という偏見に浸されてきたかを端的に示している。もとより、近代主義がすべて誤っているわけではない。しかし、合理性と技術万能の立場から絶えざる変化と伝統破壊をこととする近代主義は、それに対して歯止めをかけるべく歴的知恵と国民的な文化伝統を保守すべしとする保守主義によってかろうじてバランスを保つことが可能となる。この課題を引き受け、戦後日本の思想とアカデミズムのもつ偏向に敢然と立ち向かおうという研究者たちの困難を覚悟した志に私は深く共感する。
日本はいま旧連合軍、主として米中両国の軍事体制によって「再占領」される新しい呪縛の時代に入っています。それは平和の名において行われます。現代では平和という言葉は、核保有国が非保有国を抑える上で戦争と同じ効果を発揮しています。日本の国内では政界も、財界も、新聞テレビも一斉に「再占領」軍の平和政策になびいています。NHKなどはその教宣活動の最先端に立っています。ヤルタ・ポツダム体制の再確認のために、六十四年前に終った戦争の「罪の意識」をあらためて日本国民に植えつけようとして躍起です。この数年前までほんの少し回復しかけた日本人の自尊心、旧戦勝国と同じ目線で現代史を見直し対決地点に立つ自覚を再び踏み潰そうとする試みがにわかに盛んになりだしました。すべては日本人自らが日本人に唾しているのです。
日本保守主義研究会に集結する新しい、若い知性は、眼前を覆うモヤのような怪しい薄明を見抜いて、この国の本当の自立のために真贋を洞察し、活路を拓いていただきたいのですが、その際いまの事態はいわゆる「戦後」の再来では必ずしもないことを知っておいて欲しいのです。
米中の接近と身勝手はEU、インド、ロシアなど他の勢力がすでに反発し、批判的です。米中は現在地球上の唯一のパワーではありません。金融資本主義の破綻の結果の一時的現象と思われます。ただ日本は彼ら両国からすれば操作し易いポジションにある。「戦後」はつごうのいい利用手段にされ勝ちです。地理的にも両国に挟まれ「再占領」が容易です。われわれはそれゆえEUやインドに働きかけ、米国の中の良識的部分と提携すべきです。そのためにも過去の戦争の罪過とか称する、ルーズベルト=蒋介石時代の再来のような米中の共同心理作戦に乗らないように、最大限の注意を払っていただきたいのです。
日本保守主義研究会の若い諸君が出陣学徒の慰霊祭を靖国神社で挙行したとき、歴史と伝統についての感動的なひとこまを私は見た。およそ六十有余年の時をへだてて、若者同士が祖国の運命を確認しあっているように思えたからである。歴史というものを徹底的に否定するタイプの革命神話というものがすべて失敗に終わった世紀にふさわしい光景だった。つまり維新革命による世直しを望見する若者の姿を私は見たのである。
歴史に学ぶということは、綺羅星の如くに輝く天才たちとの対話にほかならないが、同時にその優れた人物をはぐくんだ時代の基底をさぐりあてることでもある。歴史に貯蔵された可能性と失敗、その宿命とも運命ともいうべきものを感受するところに、維新の夢が胚胎する。若者の志というものが歴史とつながるのはそのときからであり、若者の未来が豊饒になるのは、その歴史の重みを背負う覚悟を固めたときからである。日本保守主義研究会にたいする私の期待もそこから始まる。





